2023/08/21 新たな受発注者関係へ・上/相互理解が新たな信頼生む、長期的視野で取引関係刷新を
【建設工業新聞 8月 21日 1面記事掲載】
建設取引の関係者全体のパートナーシップの構築を目指し、中央建設業審議会(中建審)と社会資本整備審議会(社整審)合同の基本問題小委員会で法制度の整備・改正を見据えた議論が大詰めを迎えている。主要テーマの一つに「請負契約の透明化による適切なリスク分担」を挙げ、民間工事の受発注者関係や契約形態の改善策を提示する。予測不能な物価変動に加え、現場従事者の処遇改善や働き方改革など、既存の商慣習ではカバーできない課題があらわになってきた今こそ、長期的な視野で取引関係をアップデートすることが求められる。=2面に関連記事
ここ数年の資材価格の急騰は、総価一式に代表される既存の請負契約を再検証する契機となった。民間工事では受注者が施工中のリスクを引き受ける代わりに、調達やコスト管理など工事全般の裁量を持つ。互いの領分に干渉しないという形で協力関係が築かれてきたが、資材急騰に際しては一方的なリスク負担という弊害を露呈した。
基本問題小委に民間発注者の立場で参加する不動産協会の代表者は、投資に見合った収益を確保するため「着工時点で工事費を固める必要がある」と説明。現状の契約形態の利点を強調し、着工後の価格や工期の変更は困難との姿勢を崩さない。日本建設業連合会(日建連)の代表者は「一般的に片務的と映る慣習に受注者、発注者双方が甘んじてきた」と認めつつ、これを是正すべきと訴えた。
国土交通省は制度化の方向性として、まずは受発注者間でリスク対応の協議や交渉のテーブルに着くことを重要視する。両者が持つ情報の非対称性を解消し、請負契約の透明性を高めることでコミュニケーションを促す方策を提示する。
協議条項を規定する「民間建設工事標準請負契約約款」に準拠した契約書の使用を「基本」と位置付け、その内容を法定契約記載事項にも反映。発注者がコスト情報などに不信感を抱く状況では円滑な協議に支障を来すとの考えから、受注者には想定されるリスクの情報提供義務を新たに課し、請負代金に含まれる予備的経費や「リスクプレミアム」の明示も促す方向だ。
請負契約を透明化すれば互いの事情を理解し、手を携えてリスクに対処することが可能となる。受注者には現場レベルで情報開示が求められるが、日建連は「しっかりと取り組んでいかなければならない」と前向きな姿勢を示す。不動産協会も「リスクの合理的配分につながる」とおおむね賛同する。
基本問題小委の論点のベースとなる提言をまとめた「持続可能な建設業に向けた環境整備検討会」で座長を務めた楠茂樹上智大学法学部教授は「従来の取引慣行に頼るのではなく、パートナーシップを制度として見える形にしていく」と制度化の狙いを代弁する。透明化によって両者が納得した上でリスク対応に関する合意・約束が可能になり、技能者の賃金などへのしわ寄せを防ぐための仕組みにもなると説く。
「お互いが持っている情報をきちんと伝え、見込み違いがないようにする。それで信頼関係ができる」と実感を込めて話すのは、大和ハウス工業の村田誉之代表取締役副社長。同社は幅広い事業領域を展開する中で、発注者と受注者の両方の顔を持つ。それぞれの課題に当事者として向き合っているだけに、互いにオープンマインドで接する重要性を強調する。
新たなパートナーシップの構築には、既存の商慣習を変える覚悟が受発注者双方に求められる。両者が相互理解を通じベクトルを合わせることが、持続可能な取引環境の創出には欠かせない。
ここ数年の資材価格の急騰は、総価一式に代表される既存の請負契約を再検証する契機となった。民間工事では受注者が施工中のリスクを引き受ける代わりに、調達やコスト管理など工事全般の裁量を持つ。互いの領分に干渉しないという形で協力関係が築かれてきたが、資材急騰に際しては一方的なリスク負担という弊害を露呈した。
基本問題小委に民間発注者の立場で参加する不動産協会の代表者は、投資に見合った収益を確保するため「着工時点で工事費を固める必要がある」と説明。現状の契約形態の利点を強調し、着工後の価格や工期の変更は困難との姿勢を崩さない。日本建設業連合会(日建連)の代表者は「一般的に片務的と映る慣習に受注者、発注者双方が甘んじてきた」と認めつつ、これを是正すべきと訴えた。
国土交通省は制度化の方向性として、まずは受発注者間でリスク対応の協議や交渉のテーブルに着くことを重要視する。両者が持つ情報の非対称性を解消し、請負契約の透明性を高めることでコミュニケーションを促す方策を提示する。
協議条項を規定する「民間建設工事標準請負契約約款」に準拠した契約書の使用を「基本」と位置付け、その内容を法定契約記載事項にも反映。発注者がコスト情報などに不信感を抱く状況では円滑な協議に支障を来すとの考えから、受注者には想定されるリスクの情報提供義務を新たに課し、請負代金に含まれる予備的経費や「リスクプレミアム」の明示も促す方向だ。
請負契約を透明化すれば互いの事情を理解し、手を携えてリスクに対処することが可能となる。受注者には現場レベルで情報開示が求められるが、日建連は「しっかりと取り組んでいかなければならない」と前向きな姿勢を示す。不動産協会も「リスクの合理的配分につながる」とおおむね賛同する。
基本問題小委の論点のベースとなる提言をまとめた「持続可能な建設業に向けた環境整備検討会」で座長を務めた楠茂樹上智大学法学部教授は「従来の取引慣行に頼るのではなく、パートナーシップを制度として見える形にしていく」と制度化の狙いを代弁する。透明化によって両者が納得した上でリスク対応に関する合意・約束が可能になり、技能者の賃金などへのしわ寄せを防ぐための仕組みにもなると説く。
「お互いが持っている情報をきちんと伝え、見込み違いがないようにする。それで信頼関係ができる」と実感を込めて話すのは、大和ハウス工業の村田誉之代表取締役副社長。同社は幅広い事業領域を展開する中で、発注者と受注者の両方の顔を持つ。それぞれの課題に当事者として向き合っているだけに、互いにオープンマインドで接する重要性を強調する。
新たなパートナーシップの構築には、既存の商慣習を変える覚悟が受発注者双方に求められる。両者が相互理解を通じベクトルを合わせることが、持続可能な取引環境の創出には欠かせない。
日刊建設工業新聞の購読申し込みは、こちら