2023/06/16 強靱化法改正・下/5か年上回る事業費・年限を、後継計画策定は1年前倒し必要

【建設工業新聞  6月 16日 1面記事掲載】

国土強靱化実施中期計画の法制化は、公共投資を確保し事業の予見性が高まると期待される。地域建設業団体の幹部は、実施中期計画の効果について「国土強靱化の事業に貢献することで社会や地域で建設業界の存在感を高められる。建設会社は新規雇用や設備投資などがより計画的に行いやすくなる」との見方を示す。そうした事例が広がっていけば「将来にわたる担い手確保・定着の好循環サイクルを構築できる」と期待を込める。

実施中期計画の法制化が実現したことによって、次の焦点は同計画の策定時期や年限、予算規模といった内容がどこまで明示されるかに移る。

5か年加速化対策は官民合わせた総事業費で約15兆円、国費で7兆円台半ばに上る。法案審査が行われた5月16日の自民党国土強靱化推進本部・内閣第一部会合同会議。2020~22年度の補正予算で22年11月までに総事業費の約7割に当たる約9・6兆円(うち国費約5兆円)の事業が進んだという、政府集計の参考資料が配られた。

資料によると、20年度第3次補正予算などで予算措置した5か年加速化対策初年度の21年度は事業費約4兆円(うち国費約2兆円)、21年度補正予算などで措置した22年度は約3兆円(同約1・5兆円)を消化。これらの支出ベースを考えると、最終年度を待たずに予算を使い切る可能性もある。

今年も各地で大規模な災害が起きている中、国土強靱化対策の着実な実施が求められる。自民党の佐藤信秋参院議員は5か年加速化対策の最終年度を1年前倒しし、25年度に当初予算で後継の実施中期計画をスタートするよう提唱。同対策以上の年限や事業費の必要性も訴える。

建設業界が実施中期計画の策定で年限や事業規模などと同じくらい注視しているのが、事業費や整備スケジュールなど具体的な数字をどこまで示すのかということ。5か年加速化対策では大枠の施策テーマ別に事業費が内訳明示されている。しかし全国元請団体の幹部は「経営戦略を考えるための参考データとして不十分」と指摘し、実施中期計画では「個別の施策ごとに詳細な数字を出してもらいたい」と注文を付ける。

岸田文雄首相は8日に建設3団体から実施中期計画を早期に策定するよう求められた際、「建設業界が将来の見通しをもって仕事ができる環境を整備していきたい」と約束。最近の災害にも触れ「国土強靱化の事業効果もあり、被害が従来より少なくなったと感じる。業界の協力のおかげだ」と謝辞を伝えた。

当面の課題は実施中期計画の実効性をどれだけ高めていけるか。防災・減災効果のさらなる向上とともに、建設業が将来にわたり地域の担い手、守り手として活躍できるよう配慮することが求められる。

(編集部・沖田茉央、片山洋志)

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